この時流を追い風にして、電子インボイス推進協議会やITコーディネート協会(※注)といった複数の団体による、「電子インボイスの標準化」を目指した検討が加速しています。
これは令和5年の適格請求書(適格インボイス制度)の義務化をにらみ、インボイスの授受を電子化し、業務アプリケーションのデータ入出力にも利用しようという試みです。インボイス書式の単なる電子的な授受だけでは、前後の工程(発行側の取引書類作成および受領側での帳簿への入力など)での業務効率化が不十分との分析から、取引データ形式の共通化を普及させようとしています。できれば、書類フォーマット形式でのやり取りをなくし、完全にレコードデータ交換で済ませてしまおうと、既存のEDIとの互換性を考慮しつつ、国税が要求する適格請求書の要件を満たそうと四苦八苦しています。
各団体の検討や、既存の電子取引サービスを見ていて、ふと重要な「落とし穴」に気づいてしまいました。そもそも取引書類はなんのために取り交わすかを考慮しているのかと。
取引書類は、資産やサービスの提供と購入という経済的活動を行う手段です。そのうえで、取引の正当性を確認するための証憑であるということを忘れてはなりません。
たとえば、販売側および購買側ともに、金融商品取引法(J-SOX)の要求において、誤った取引データが生成されるリスクをコントロールする時のエビデンスとして取引書類の確認を行います。
また、取引における民事訴訟が発生した場合、自社の正当性を証明するためには、相手との取引書類は重要な証拠となります。
最重要なのは、3年程度で実施される税務検査において、税務署に納税の正しさを証明するためには、納税申告から7年間、取引書類を保存して説明に備えなければなりません。どの場面でも、第三者に対して可視的な証拠として取引書類を示し、説明を行う説明責任があるのです。
心配なのは、採用した電子取引は、説明責任目的に耐えられるかどうかということです。
税法が義務化する取引書類保存において、電子取引データの保存要件は電子帳簿保存法で次のように定められています。
可視性の確保のため、取引日、取引の相手、取引の事由、金額など主要な記録事項による検索、範囲指定、組み合わせ検索ができること。
真実性の確保のため、次のどれかを満たすこと。
① タイムスタンプを付す。
② 正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、当該規程に沿った運用で、訂正又は削除を行った場合はこれらの事実及び内容を確認できる
③ 取引情報にタイムスタンプが付された後、授受を行う。
④ 訂正又は削除を行った場合はこれらの事実及び内容を確認できるシステムで授受および保存を行う。
⑤ 訂正削除を行うことができないシステムで授受および保存を行う。
電子取引では、取引における業務の効率化だけで、保存義務と説明責任対応をサポートしていないものが見受けられます。採用においては、欠けている機能をどのように補うか考慮しておかないと税法の取引書類保存義務違反(違法)になってしまうことを意識するべきです。(T.M)
※注
・電子インボイス協会
https://www.csaj.jp/activity/project/eipa.html
・中小企業共通EDI標準のバージョンアップ(ver.3)版の公開について(中小企業共通EDI)
https://www.edi.itc.or.jp/edi-ver-3
アクセス確認:2020年10月21日
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