文書とは
多くの文書が電子的に生成される現代にあって、文書はどのように定義されるべきなのでしょうか。また、表現・保存される媒体の進化(石版→紙→電子媒体)に伴って、その意義や役割を変えてきたのでしょうか。
ここで、法的な見地より「文書とは何か」を問うたものとして、大審院の判例(明治43.9.30)に遡ってみます。
そこには、
「文書トハ文字若シクハ之レニ代ル可キ符号ヲ用ヒ永続スヘキ状態ニ於テ或物体ノ上ニ記載シタル意思表示ヲ云フ」
とあります。
現代での解釈では、
「文書とは、文字または文字に代わるべき符号を用いて、永続すべき状態で任意の物体上に記載された意思表示の事」
となりそうです。
そうしますと、明治の頃より、「文書とは、(文書が表現されるメディア、さらには文字の表現様式に依らず、永続すべき状態で、)一意に意思を表現したもの」と定義されていたことになります。
この定義は、デジタル以前には「文書」とは明らかに境界を引いていた「図面」や「帳票」等をも(人間の意思を内在・反映したものとして)広義の「文書」と取り扱おうという昨今の風潮を予見していたかのようです。
私たちDMS(文書管理システム)部会は、「文書管理システムによる文書活用を通じて企業・組織の知識活動の発展・促進に寄与しよう。」との意志の下にあることに於いて、この定義を積極的に支持するものです。
デジタル時代の文書の価値
前章では、「文書とは、意思を表現したもの」と定義しました。
その文書が、例えば製造業での「設計図面」、サービス業での「サービスマニュアル」、あるいは企業活動での「企画書」「提案書」等、企業の意思や知恵を反映したものであるならば、それは正に企業価値そのものを体現したものと言えます。
しかしながら、文書は能動的にその内在する意思を表現し、自らの価値を自律的に持続・保持し続けるものではありません。
実際、古文書は、先人の「将来に引き継ぐ。」との強い意志により、「モノ」としての価値を高めてきたものです。一方、電子的に生成された「デジタル文書」の場合は、それが如何に叡智を込めて書き上げられたものだとしても、将来的に「モノ」としての価値を認知される機会は訪れないのではないのでしょうか。
このように、文書は電子的に生成(born-digital)されるようになった頃より、その物理的な「モノ」としての価値を言及されることなく、その内側に込められた「意思」あるいは「コト」そのものが価値として問われる時代を迎えたのです。
そして、「デジタル文書」の価値を最大限に活用する場(ステージ)を提供するものとして進化してきたものが「文書管理システム」なのです。
文書管理システムの変遷
それでは、デジタル時代の「文書管理システム」の価値・効用がどのように訴求されてきたのかを辿り、その意義を振り返ってみます。
@ デジタル文書の保管庫
文書が電子的に作成されるようになり、指数関数的に生成・複製されるデジタル文書の保管・管理庫としてのファイルシステムの進化系として、半ば必然的に「文書管理システム」が提唱されました。ほどなく、管理概念としての「フォルダー」「キャビネット」「検索エンジン」等が実装されます。
A ペーパーレス推進 〜 保管庫としての省スペース化と文書探索の省力化
新規生成される文書のみならず、既存の紙文書の電子化をもって保管庫の物理的な省スペース化が追求されました。併せて、文書閲覧あるいは再利用時の「全文検索」「属性検索」「目録管理」による該当文書の特定の効率化・省力化が導入に際しての動機づけとなりました。
B リスクヘッジ・ツール〜 企業活動の記録と評価によるリスクの未然回避
2006年の「J-SOX」の施行を機に企業活動に関する「記録管理」「説明責任」が求められるようになり、企業活動を記録する「企業文書」の一括管理ツールとして「文書管理システム」がリスクヘッジのために有効であるとされました。あってはならない企業不祥事の解決のコスト(賠償金等)に対するリスクヘッジ策に、その対投資効果を求めました。
C ビジネスプロセス改善ツール 〜 ユビキスタス環境でのビジネスプロセスの効率化
モバイル、クラウド等のユビキスタス環境の普及と共に、場に束縛されないビジネススタイルが実現されました。「ビジネスプロセスは、ビジネス文書を介して進行する。」の認識のもと、文書管理システムと「ワークフロー」で一元管理されたビジネス文書を場によらずに次のビジネスプロセスに遷移させることで全体プロセスの短縮・効率化と可視化を実現しました。
こうして振り返ってみますと、文書管理システムの果たしてきた意義は、ITの進化に伴うビジネススタイルの変容の最前線に立って応えてきたものの積み重ねにあることが分かります。
このことからも、「文書管理システム」が現代のビジネスあるいは企業活動を多面的に支援する有効なツールであることが改めて理解できます。
これからの文書管理システムとは
ここまで、「文書管理システム」がビジネスの場にもたらす恩恵を確認してきました。
そうしますと、その多くは「コストメリット」としての効用であることに気付きます。
一方、我々はこの冒頭で「文書」の価値をその文書に込められた「意思」に見出すとしました。
果たして、「意思」の価値は「コスト」の観点だけで語られるべきものなのでしょうか。
我々は、優れた文書は次代に叡智を繋ぐ役割を果たしてきたことを知っています。そして、文書が内在する先人の「意思」は次の「意思」の創造に用立てられてこそのものと考えるものです。
我々DMS(文書管理システム)部会は、これからの「文書管理システム」は文書の本来の価値を追求する「価値創造の支援ツール」にあるべきとの「意思」のもと、その姿を探求していきます。
今後の「文書管理システム部会」の活動に、ご期待ください。
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