目次

1. 公文書管理法は施行されたけれど…

公文書管理法が施行(2011年4月1日)され、電子公文書の保存・管理に向けた取り組みの必要性が提起されました。
しかしながら、行政の現場では、その法の真の目的に則した公文書運用にはなっていない、あるいは取り組みがなされていないのが実情のようです。

ここでは、その取り組みの先例からの学びを通じて、公文書管理法が国民に利するとしているものが、実は「日々の行政業務の改善」ひいては「行政サービスの質向上」に繋がることであったとの気付きに至る経緯を記します。
更に、その気付きを如何に実務に実現していくかの取り組みのヒントを導出していきます。


2. 目から鱗! 何故、行政サービスの向上に繋がるの?

公文書管理法の施行の目的を再確認します。

≪公文書管理の目的とは≫

組織活動が適切かつ効率的に運用されること

現在および将来の国民に対する説明責任が果たされること

この読み解き方で重要となるのは、真に求められているものは、実は公文書(モノ)そのものにあるのではなく、公文書を通じて組織活動を運用する(コト)であり説明責任を果たす(コト)にあるということです。

ここで、ある自治体での公文書運用の事例として、情報公開法あるいは電子政府(e-Government)の提唱を契機として取り組まれた「文書管理システムによる簿冊目録管理」の実際を振り返ります。

≪文書管理システムによる簿冊目録管理の実際≫

2001年に電子政府が重点政策課題のひとつとされたことを機に、公文書運用の現場を電子化しようという構想の一環として、文書管理システムで公文書の簿冊を管理する取り組みがなされました。
一般に簿冊管理は、決裁が終了した文書のフォルダー化から年度別キャビネットでの保存へと進みます。更に、そのキャビネットで保存された簿冊は、年度ごとに執務場所から倉庫等に移動して行きます。そして、情報公開サービスとしては、簿冊を最小単位とした書面の有無および所在情報の一覧を提供しています。
この事例は、簿冊の目録の管理体系に文書管理システムを適用したものです。

これにより、該当の公文書が承認に至って保管される経緯がワークフローとして文書管理システムに残るようになり、また公開サービスの場面での公文書の検索性も飛躍的な向上を見ることになりました。

しかしながら、これらは電子化故の効用に留まるものであり、次の既知の問題には手つかずの状態でした。

  • 公文書としての結果しか残されない。(結果に至った経緯・背景が残らない。)
  • 部門単位の縦割りとしての取り組みであったため、情報が重複して保管・管理されている。
  • 電子的に作成された公文書であっても、「印」による承認を伴った紙の状態で保存されている。

時代的な背景からも、情報公開法(2001年4月1日 施行開始)に応えるための公文書の所在管理と公開サービスを志向したものとして簿冊目録の運用改善は実現できましたが、公文書そのものの管理運用に及ぶものではありませんでした。結果として、後に施行されることになる公文書管理法の求める前述の2つの目的に適うものには成りえておりません。
これは、まさに公文書を一意に保存する(モノ)として捉えてしまったことに起因する結果と言えます。

≪真に取り組むべきことは≫

これらを踏まえ、公文書管理法が真に求めるものとして読み解いた「公文書を通じて組織活動を運用する(コト)、説明責任を果たす(コト)」のために、将来に何を残し引き継ぐべきなのかに立ち返ってみます。

情報公開法および公文書管理法では、公開請求と保存の対象として、行政機関が作成した最終文書のみならず、その意思決定の過程で作成された文書をも含むとしています。説明責任(アカウンタビリティ)を果たすということは、「何故(Why)」「どのように(How)」「その結論(Evidence)に至ったのか」を示すことであると定義してくれているのです。
そうしますと、それは、将来の国民に対する先人としての知恵(ノウハウ)あるいは経験(失敗を含む)そのものであるとも言えます。
この意識転換を前提にその利活用の場面を考えますと、公文書管理を「将来的に求められるかもしれない情報公開のサービスの局面に供するもの」のみならず、「再利用可能な行政の知恵(ノウハウ)を蓄積・引き継ぐもの」として捉える事が出来ます。そして、この再利用可能な行政の知恵は日々の行政業務に反映・活用され、最終的には質の高い行政サービスとして国民に提供されることになります。


3. 先進事例に見る取り組みのヒント

本稿では、前述での意識転換から導いたテーマを「行政サービスの向上に繋ぐ公文書管理」とします。
そのテーマに則した事例としての欧米諸国での「Case Managementに基づく取り組み例」の検証を通じて、行政の知恵を蓄積・引き継ぐためのヒントを導出します。

≪Case.Managementとは≫

医療・メンタルヘルスケアの領域での問題解決のための方法論として1920年代より開発が進められました。
その概要を示します。

案件・事案(Case)に対する行動計画、適切な実行者のアサイン、行動記録、進捗管理など、一連の管理サイクルを現場レベルで行う概念

定型ビジネス・プロセスの枠組みに非定型ビジネス・プロセスをサブセットとして連携させ、弾力的な業務運用を可能にする。

≪Case Managementのイメージ≫

欧州の政府では次を目的として、行政業務へのCase Managementの応用が行われております。

≪欧州政府でのCase Management採用の目的≫

合法性と平等性の原則から、意志決定と意思決定の根拠をドキュメント化して立証の責任を果たす。

従業者の知識共有を支援する。

監督業務の行使を可能にする。

また、行政業務には、特に企画活動での特定の検討議題に対して、組織の中で会議体等を通して行動を決定していくような非定型的な場面が多くあります。
ここでは、ワークフローでは対応が困難な、定形型と非定形型の組み合わせ業務でのCase.Managementの適用例を紹介します。

≪定形型と非定形型の組み合わせ業務でのCase Managementの適用例≫

これらの検証より、Caseの概念をもって、行政業務の知恵(ノウハウ)あるいは経験を体系的に保存・管理し得るとの認識に至りました。また、この考察を通じて、Caseを「コト」と言い換えることが可能であるとの感触も得ました。

4. 取り組みのポイントと今後の進め方

前章では、行政業務の知恵・経験の取り扱いに、相応の方法論の適用が有効であることを検証しましたが、それだけでは今回のテーマ「行政サービスの向上に繋ぐ公文書管理」に応え得るものには成り得ません。
行政業務の知恵が、確実に効率的に蓄積され、日々の行政業務に活用されるためには、公文書のあらゆる局面とライフサイクルを通じた運用の一貫性が求められます。
その取り組みのポイントを示します。

≪取り組みのポイント≫

行政業務の経緯が、行政文書の作成の推移に応じて自動的に記録されること。

  • 記録行為を意識することなく業務の経緯が即時に蓄積されることで、記録の義務化に伴う属人性(ばらつきや思い込みの移入)を回避します。

行政文書の属性(保管期限, 重要度, 公開範囲等)によって、基本運用が変わらないこと。

  • 安定した継続的な文書運用とするために、行政文書の属性(特に、保管期限「短期〜永年』)によって運用を分岐させる煩雑化を回避します。特に保管期限にあたっては、ノウハウとしての再利用の機会は直ぐに訪れ得ると考えるべきです。「歴史的文書となるかもしれないもの」も「旬のノウハウとして直ぐに再利用出来るもの」に対しても、共通の汎化された運用を適用します。

行政文書は、その作成(create)の段階より、その後の行政文書の一生(ライフサイクル)を経ることを前提としたものであること。

  • 行政文書のライフサイクルを一気通貫で全うするためには、その後の文書運用のあらゆるシーン(場面)に耐え得る構造である必要があります。一意には、電子文書として作成されたもの(born-digital)は、そのライフサイクルを通じてメディアとしての変換を要する場面が生じない電子文書の状態であることを要求します。

非定型業務に対応できること。

  • 新規性の高いチャレンジングな行政業務は、動的に業務遂行のチーム・担当者が定義されるような非定型業務であることもあります。そのような業務シーンでも、行政ノウハウが体系だって管理・記録される必要があります。

≪今後の進め方≫

私たちは、公文書の保管運用としての「文書管理システム」をもっての(失敗例を含む)取り組みの経験を踏まえ、長期的な視野での「公文書運用のあり方」を提言するものです。
そのためには、まず次の課題を解決しなければなりません。

知恵(ノウハウ)あるいは経験としての案件・事案(Case)を文書管理システム上で、如何に平易且つ可視的に表現するか。

Case.Managementだけでは解決できない要件(前述の「取り組みのポイント」)を如何に補完するか。

提言に基づく取り組みの効果(行政業務・サービスの質向上)の指標を何に求めるか。

また、この取り組みは行政業務のみならず、「持続可能な企業活動に向けての企業ノウハウの蓄積・再利用」に等しく応用可能のものでもあり、我々の言行一致活動としても捉える事が可能です。

引き続き、現場感覚に基づく実効的な提言を目指します。