第2回 媒体の安定性についての質問

Q8. 媒体の安定性とは何か?
A.記録情報の安定性とは、保存媒体がその意図する目的に対して安心して使うことのできる期間のことであり、その目的は新しい情報の記録であることもまた前に記録された情報の再生(検索)であることもある。この安定性の期間は、与えられた保存媒体の寿命、推定寿命、寿命期待度、或いは有効寿命とも呼ばれている。
Q9. 何故媒体の安定性が重要か?
A.信頼できる情報システムには、安定した保存媒体が必要である。特に、再生の安定性は、記録情報の検索可能性にとって必須条件である。安定性の考慮は、記録情報の保存に主眼が置かれる文書のライフサイクルの非活用段階において特に重要となる。理想的には、与えられた保存媒体の寿命は、媒体に収める情報についての保存期間と同等またはそれ以上とする。
Q10. どんな要素が媒体の安定性に影響するか?
A.安定性とは、保存媒体の元々の物理的特性および化学的特性を維持することである。これらの特性は、時間の経過とともに変化を受けるが、変化の速さは媒体の種類によってまちまちである。与えられた情報保存媒体の安定性は、時間の経過、その化学的成分、並びにその保存条件および使用条件に依存する。
Q11. マイクロフィルムはどの位もつか?
A.何十年もの科学的研究の結果、写真フィルムは、マイクロフィルムを含めて、記録情報の長期保存または永久保存が潜在的に可能な、優れた物理的科学的安定性を持っていることが確かめられているが、具体的な寿命はフィルムの種類によって異なる。

銀ゼラチンのマイクロフィルムは、文書保存用に現在利用可能な媒体で最も安定な媒体である。このフィルムは、文書のマイクロ写真、電算出力マイクロ(COM)、或いはマイクロフィルムの複写に使うことができる。

現在販売されている種類の、ポリエステル・ベース材料を用いた銀ゼラチンのマイクロフィルムは、製造、処理、保存が適切に行なわれていれば500年を超える寿命がある。これより古いトリアセテートのベース材料を用いた銀ゼラチンのマイクロフィルムは、撮影、処理、保存が適切に行なわれていれば100年を超える寿命がある。

ジアゾと気泡方式のマイクロフィルムは、もっぱらマイクロフィルムのコピーに用いられている。この種のフィルムは、適切な保存条件であれば100年の寿命がある。

一部のCOMの記録装置に使われている熱現像銀方式のマイクロフィルムも、同様に適切に保存されれば100年の寿命である。
Q12. このような長い寿命をどのようにして推定するのか?
A.自然経時した媒体を観察するのが、明らかに最も信頼でき望ましいマイクロフィルムの安定特性の確認方法である。現在保存されているマイクロフィルムについては、このような観察によって何十年もの寿命が確かめられている。残念ながら、100年以上の寿命を有する媒体については、直接的な観察では実証できていない、あるいは不可能である。このような場合には、強制劣化試験に基づいて寿命推定を行う必要がある。

全ての物は時間と共に変化する。強制劣化試験は、長期間かけて自然に起きる劣化プロセスを加速させるものである。研究室の環境で特別な装置を用いて、媒体に極端な条件を比較的短時間加えてやる。その結果起きる損傷を観察し、より弱い条件下で同程度の損傷が起きる時間がどの位になるかを、数学的計算によって予測するのである。
Q13. マイクロフィルムの安定性の特性は、規格化されているか?
A.米国においては、マイクロフィルムを含む写真フィルムの安定特性を規定する規格が、米国規格協会(ANSI)から出版されている。他の国々でも、これに相当する規格が国内標準制定組織によって制定されている。該当する米国の国内規格を次に挙げる:
  • ANSI/NAPM IT9.1、「画像化材料─現像済銀ゼラチン黒白フィルム─安定性に関する細目」
  • ANSI IT9.5、「画像化材料─アンモニア現像済ジアゾ写真フィルム─安定性に関する細目」
  • ANSI/NAPM IT9.12、「処理済気泡写真フィルム─安定性に関する細目」
  • ANSI/NAPM IT9.19、「画像媒体(フィルム) ─熱現像済銀マイクロフィルム─安定性に関する細目」
また、銀ゼラチンマイクロフィルムの現像の指針として、ANSI/NAPM IT9.17、「現像済写真フィルム内の残留チオ硫酸塩その他同族化学物質の測定─ヨウ素アミロース、メチレンブルーおよび硫化銀を用いる方法」に示されている。

保存条件については、ANSI/NAPM IT9.11、「画像媒体─現像済不燃性写真フィルム─保存」、並びに、ANSI IT9.2、「画像化媒体─写真用現像済フィルム、乾板、印画紙─ファイル用具」に記述されている。
Q14. 安全なマイクロフィルムの保存のために、どんな環境条件が推奨されるか?
A.ANSI/NAPM IT9.11規格は、マイクロフィルムの長期(永久)保存および中期(少なくとも10年)保存のための、最高温度と相対湿度の許容範囲を規定している。

長期保存については、この規格は温度湿度制御の組合せを3水準指定している。
即ち:
  • 相対湿度20〜30%で21℃(70℉)以下;
  • 相対湿度20〜40%で15℃(60℉)以下;
  • 相対湿度20〜50%で10℃(50℉)以下;

マイクロフィルムの中期保存については、環境制御の厳しさがより軽くなる。最高温度は25℃(77℉)を超えてはならず、21℃(70℉)より低い温度が好ましい。中期保存の場合の相対湿度については、20〜50%の範囲に入ればよい。 

Q15. このような環境条件を満たすために、マイクロフィルムシステムのトータルコストが上がらないか?
A.マイクロフィルムの長期保存に必要とされる温度湿度の制御は、オフィスの環境では達成は難しく、またマイクロフィルム保存用の空調のある保管室を備えた会社は僅かしかない。従って、大多数のマイクロフィルムのユーザーは、適当な施設を備えた業者に、離れた場所での保管を委託することが必要になる。このような業者からは、保管スペース分の代金が請求される。マイクロフィルムはコンパクトではあるが、マイクロフィルムシステムの導入を計画する段階で、そのコストを考慮しなければならない。

重要なことは、このようなコストはマイクロフィルムに限ったことではないことに気付くことである。いかなる情報システムについても、適切な保存条件は、任意の追加費用ではなく不可欠な構成要素になる。いかなる媒体においても(それが紙であろうと、写真であろうと、或いは電子媒体であろうと)安定保存のためには空調が必要である。

一例として、マイクロフィルムの長期保存のための温度湿度制御は、ISO 18923規格、「画像材料─ポリエステル・ベースの磁気テープ─保存実務」に示されている、磁気テープの長期保存用に推奨される空調条件と事実上同じである。
 
Q16. マイクロフィルムの寿命を、磁気ディスクや磁気テープのようなコンピュータ用媒体と比較するにはどうしたらよいか?
A.国内および国際規格には、マイクロフィルムの寿命推定についての規定があるが、コンピュータベースの文書保存検索システムに使われる磁気媒体や光媒体の安定性を取扱ったものでこれに相当する規格はない。これらの媒体は、マイクロフィルムに比べて寿命が短いが、コンピュータ記憶媒体は多様であり、その媒体間で化学的成分、物理的特性、並びに意図する用途が異なるため、これを一般化することは難しい。

安全なオフラインの場所で保管できる、磁気テープのような取外し可能なコンピュータ媒体にとって安全性の配慮は重要である。ハードディスク(固定ディスク)は、多くの電子文書画像化システムを含む高度コンピュータシステムでは極めて優れた媒体であるが、その記録内容は、ヘッドとの衝突やその他のシステムの故障によって損傷を受けやすい。バックアップ保護のためには、ハードディスク上の情報を、磁気テープのような取外し可能な媒体にコピーしてオフラインの保存ができるようにしなくてはならない。

磁気テープの製品群には、1ダースを超える数の記録手法および媒体フォーマットがある。いろいろな雑誌記事、技術レポート、科学的研究によれば、磁気テープは、その化学的組成により10〜30年間は読取り可能であるとされている。これらの結果は、強制劣化試験に基づいたメーカーの主張とも合うものである。このことは、古いコンピュータ記録媒体の使用実績による報告によっても確認されている。

例えば、コンピュータでは10年以上保存されていた磁気テープから、情報をうまく読取ることができている。一般的には、デジタル・リニアテープ(DLT)やデジタル・オーディオテープ(DAT)等のより新しい磁気テープフォーマットは、9トラック・リールや3480カートリッジのような古いフォーマットより長い寿命を持っている。
Q17. 光ディスクの寿命についてはどうか?
A.大多数の光ディスクはここ20年以内に出規したものであるから、長期保存した媒体の直接観察は不可能である。従って、光ディスクの安定性の主張は、利用実績によるものではなく強制劣化試験に基づいている。光ディスクの安定性の問題を扱っている唯一の規格は、ANSI/NAPM IT9.21、「コンパクトディスクの読出し専用メモリ(CD-ROM)の寿命期待値─温度および相対湿度の影響に基く推定方法」である。

この規格には、CD-ROMの寿命測定のための強制劣化試験法が記載されているが、CD-ROM媒体の寿命の期待値については明記していない。別の情報源では、その寿命は約25年と推定されている。メーカーは、DVD-ROMについても同程度の寿命を推定している。

市場で入手できる光媒体の中では、記録可能コンパクトディスク(CD-R)が最も安定性がある。強制劣化試験に基づいて、メーカーは、低温で乾燥した環境でCD-R媒体は75〜200年の寿命があると主張している。その範囲が広いのは、個々のCD-R媒体の化学的組成の差によるものである。記録可能なDVD(DVD-R)のメーカーも、その製品について同様の主張をしている。

その他タイプの光ディスクの寿命は、10〜50年の範囲であり、文書画像化に広く利用されている光磁気(MO)ディスクについては一般的に30年と言われている。マイクロフィルムと違って、光ディスクの寿命は、国内および国際規格がなく、また最適な保存条件についても確立されていない。

Q18. 磁気テープや光ディスクは「アーカイバル(長期保存)」媒体ではない?「アーカイバル」とはどういう意味か?
A.磁気テープや光ディスクは、製品広告やその他の販促資料にアーカイバル媒体のように書かれることがあるが、これらにはその説明から示唆されるような永久保存性はない。前述したANSI/NAPM IT9.23規格は、永久的価値のある情報を収めた磁気テープの保管について長期保存条件を示してはいるが、磁気テープが永久保存特性を持っているという記述も示唆もしていない。

コンピュータシステムにおいて「アーカイブ」とは、非活用な情報を、ハードディスクのような比較的高価なオンライン記憶媒体から、磁気テープや光ディスクのような比較的安価と思われる取外し可能な媒体に移して、オフライン保存することを言う。「データ・アーカイビング」と呼ばれるこの機能は、非活用な紙の文書をオフィスから離れた場所の保管施設に移すことを電子式に行うことに相当する。磁気テープおよび光ディスクは、このようなデータ・アーカイビングに適しているという理由で、アーカイバル媒体と考えられている。

Q19. 将来、永久保存可能なコンピュータ記録媒体が開発されるかどうか?
A.コンピュータ記録媒体の安定性は、ここ20年にわたって改良されてきた、より新しい磁気テープや光ディスクほど、古いものより長い寿命を持っている。CD-RおよびDVD-Rのメーカーは100年の寿命を主張しているが、銀ゼラチンのマイクロフィルムの永続性に太刀打ちできるコンピュータ記録媒体はない。媒体の安定性の改良は続くであろうが、将来永久寿命のコンピュータ記録媒体ができることは予測しがたい。研究報告、特許その他の技術出版物から判断して、長寿命は、殆ど新しい媒体の設計目標値にはならない。

これらの媒体は、記録情報の永久保存には不十分かも知れないが、現在得られている寿命があれば、その他の目的には適している。例えば、多くの磁気テープは、バックアップ用コピーとして役立っており、通常、短期間で交換され再使用される。このような使い方においては、長寿命よりもむしろ繰返し記録の耐久性が重要になる。

Q20. 新しいコンピュータ媒体に定期的に再コピーすれば記録情報の寿命は伸びるか?
A.媒体の寿命が記録情報の保存期間より短い場合、新しいコンピュータ記録媒体に定期的に再コピーすることは可能であるが、それが長期保存の要件を満たす最良の実践になるとは言えない。定期的な再コピー作業は、時間のかかる労働集約型の作業である。大多数のコンピュータ作業は、現在ある作業ルーチンで過負担になっており、余分な仕事、特に低頻度でしか参照しないような古い情報を保存する目的でのみ行おうとするための余裕は無い。

定期的な再コピー作業は、永続的要件であり時間の経過と共に困難になってくる。コンピュータ媒体に記録される情報量が増すと共に、継続的な再コピー作業を成し遂げるには、益々時間がかかることになろう。
Q21. 定期的な再コピー作業はマイクロフィルムにも必要か?
A.マイクロフィルムの寿命は、非常に長い保存要件に良く適合している。銀ゼラチンのマイクロフィルムは、新媒体への定期的な再コピー作業無しに貴重な情報を永久保存するのに適した中性紙以外では、唯一の情報保存媒体である。

マイクロフィルムが損傷しない限り、定期的な再コピー作業は不必要である。
Q22. 紙の文書はどの位もつか?
A.マイクロフィルムやコンピュータ記録媒体におけると同様に、紙の寿命は、化学的組成のような内的因子と保管場所の温湿度条件のような環境的因子とによって決まる。いくつかの国内および国際規格が紙の永久保存特性を規定しているが、オフィス用文書では、中性組成およびアルカリの制限量を規定するこれらの規格に準拠するものは殆どない。中性紙は入手可能であるが、業務用の記録保存には殆ど使われない。

多くの重要なオフィス文書は、時間と共に悪影響を及ほす酸性成分を比較的多く含む紙を使って、レーザープリンタ、インクジェットプリンタ、複写機で印刷されている。マイクロフィルムと違って、このような紙は、情報の永久保存には適しておらず、その寿命は規格に規定されていない。長期保存あるいは永久保存が必要となる場合は、業務用文書のマイクロフィルム化が最良の実践である。
Q23. マイクロフィルムの保存用コピーについてどんな問題が報告されているか?
A.化学的組成によっては、マイクロフィルムは100年或いは何百年という安定性を示すが、マイクロフィルムの保存用コピーについて時々問題が報告されている。その例としては、アセテート・ベースのマイクロフィルムのもろさや、マイクロフィルムの変色がある。これらの問題は、通常、不適切なマイクロフィルムの現像処理手順や保存条件に起因すると考えられる。多くのマイクロフィルムは、温湿度条件が上記規格の許容範囲から外れるオフィスやその他の場所に保管されている。適切な環境条件が守られたとしても、マイクロフィルムの保存コピーは、問題の早期発見のために定期的に検査し、対応策をとる必要がある。

重要なことは、保存を目的とし殆ど利用することのないマイクロフィルムの保存用コピーと、閲覧、印刷等に使われる作業用コピーとを区別することである。如何なる媒体でも安定性のある作業用コピーというものは無い。マイクロフィルムの作業用コピーは、閲覧したり印刷したりする間に、不注意な扱いや装置の故障によって損傷を受ける可能性がある。作業用コピーはまた、空気中の塵、煙、皮膚の脂肪、指紋、こぼした液体によって汚染されることもある。